今 思うこと

AAFC 連続エッセイ
投稿日
2013/04/30
執筆担当
関田 真一
 

  
  音楽を聴き初めたのは、大分にお古いお話でございますが、SPの末期LPの黎明期、昭和29年の春。生意気盛りの頃。怪我で右足にギブスの不自由な生活を余儀なくされていました。 退屈しのぎに親父自慢の5球スーパー・ヘテロダインで進駐軍向け放送FENのクラシック音楽を聴きだしたのが始まりでした。

  その後、アルバイト先の姉上様方にご馳走になった、日本橋三越そばの名曲喫茶ブラジローレから名曲喫茶通いのはしりとなり、昭和30年秋には、都内有数のLP・SPのコレクションを誇っていた銀座二丁目並木通り角の “えちゅーど” を根城に、コーヒー一杯で8時間もネバり、カペー、ブッシュ・ランドフスカと片っ端から名演奏を聴きまくったお陰で年不相応の耳年増になりました。
当時は名曲喫茶の全盛期、銀座近辺でもえちゅーどの他に、京橋袂の“ヴィヨン”ここにはシュタルケルのコダーイが、四丁目今の日産ギャラリーの裏の“琥珀”ここにはウエストミンスターのK563が、数寄屋橋ソニービル裏の老舗“らんぶる”ここには6枚組のロンドンのソーレム修道院聖歌隊のグレゴリアン・チャントがありましたが、らんぶる以外は、ステレオの登場でバタバタと廃業していきました、多分コーヒー一杯で何時間もネバる客相手のノンキな商売が出来る世の中では無くなって来たのが最大の原因だったのでしょう。

  昭和31年 “えちゅーど” 新春第一回レコード・コンサートに、登場したランドルフスカ1945年二度目の録音のJ・S・バッハのゴールドベルグ変奏曲(米RCA LM1080 2ドル98セント 邦貨3000円)でした。これを聴いたその日から寝ても覚めても、この曲が頭のなかで鳴り響き、青いジャケットのこのレコードが夢にまで出てくる始末。なんとしても自前の再生装置(当時はまだオーディオなんて表現はなかったのです)を手に入れ我が家で聴くぞと一念発起、再生装置もないのにレコードを発注8月末に到着、再生装置が完成するまでの4ヶ月は、いじらしくも鳴り響くさまを想像しながら只々漆黒の盤を眺め磨いておりました。分不相応な再生装置を手に入れるには、友人たちから、あいつはサンカク(東・西・南=キタナイ)だとか、タンツボだから(溜まれば溜まるほどキタナクナル)などと言われないように苦労しながら、“えちゅーど” には歩いて通い、数寄屋橋通りのミカサのアイスクリーム付の大盛りカレーは1杯で我慢して貯金、この苦労が実って正月から11月までになんと5万円弱が貯まりました。12月始めその全資金を握りしめそれまで時間だけは十分かけて検討を重ねたパーツを買いに、秋葉原へ出かけて買いまくってきました。
プレーヤー・システムは、ターンテーブルがアルミ12吋シンクロのリムドライブ“鈴木のFR-180 ”(実に長命でした、リムを交換しただけで約20年動いてくれました)。ピック・アップは、形と音味に惚れた日本電気文化P14LS。プリ・アンプとメイン・アンプは友人苦心の作。スピーカーはテクニクス8P-W1にツイター5HH17を8kクロスで付けました。クルシミマスがサンザクロースでやって来た12月25日、遂に、待望の再生装置が完成。晴れて我が家の四畳半でランドフスカのゴールドベルク変奏曲が鳴り響いたのです。暫くの間はLPレコードはこの1枚だけ、あとは神田須田町角の畜晃堂で1枚100円の中古SPで買い漁り、随分とこのお店にはお世話になりました。ここで新品同様の鶯色ジャケットの6枚組のランドフスカが弾いたクープラン曲集に出会ったときは、まさに天にも昇る思いでした。有り金はたいて買ったジャケットを抱えて一刻も早く家にかえりたく岩本町から都電を奮発し帰宅しました。帰り着いて、すぐにアンプの電源をいれ何はともあれ3枚組の第11曲の“偉大なる吟遊詩人の年代記の第5曲のヴィエール弾きと乞食” を聴いた感動は、未だにはっきりと覚えています。

  さて、最近驚いたことはKKコズミック社から出た “珠玉のクラシックコレクション特集、10大名演奏家集[BCD-002]”のタイトルで出たCD10枚セット、これがなんと980円だったことです。録音は、1930年代後期から1940年前半、これがまた結構な復刻で、まさに価格破壊のCD,お買い得でした。
1枚目は、ホロヴィッツのチャイコフスキーのピアノ協奏曲他9曲、2枚目は、ラフマニノフの自作自演が5曲他が4曲、3枚目はコルトーのショパン他が7曲、4枚目はクライスラーとレオ・ブレッヒ指揮のベルリン国立管弦楽団のベートーベンのヴァイオリン協奏曲 これはSP時代決定版と評判になったもので、未だにこの演奏を超えるものは無いと思っています。その他小品が8曲このクライスラーとフォイアマンがこの曲集の白眉でした。5枚目は、ハイフェッツのモーツアルトのヴァイオリン協奏曲第5番他4曲、6枚目は、カザルスのバッハ無伴奏組曲第3番他7曲、7枚目は、夭逝の名チェリスト、エマニュエル・フォイアマン、絶品のベートーベンとシューベルトのチェロ・ソナタ他2曲、8枚目は往年の名テノール ジーリが19曲、、9枚目はこれも往年の名テノール カルーソーが20曲、10枚目は名ソプラノのポンセルの13曲と全くのお値打ち品、堀り出し物ばかりでした。
さて、古いお話は、認知症の前駆症状とか、この辺でお後が宜しいようで・・長々と駄文にお付き合いいただき有難うございました。

    次は 林 英彦さん にお願いします。

以  上